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★story/消失したelan's blogより-くだらない短編小説

2011年12月08日 09:27

H I G E




ヴィジュアル・イメージング・ノベル


(例によって画像はまったく関係ありません)




今朝、鏡の中の私の顔に、

約一センチメートルになろうかという位の

剃り残しのヒゲを見つけた。

つい先ほどにもテレビで宣伝している、

深剃りが自慢の電気カミソリ君で剃り上げたところだというのに。



顎の右下側、

約三センチくらいのところには根を張っていた。

DSC01886_2827.jpg



なるほど、なかなかいい場所にいるじゃないか。

と思ってしまった。


ここなら鏡ではなかなか確認できない上に、

深剃りが自慢の電気カミソリ君の刃でも、

顎の骨によってじゃまされて

なかなかとらえにくい場所じゃないか。


  
しかし、なぜ君だけなんだ?

回りにも毛穴はいっぱいあるじゃないか。

回りの奴等はきれいに、

深剃りが自慢の電気カミソリ君の超音波振動二枚刃の餌食となって、

毛穴の中深くに毛根の痕跡を残すだけになっているのに。


 


それだけじゃない、

私はかなり濃い方なので、

朝はもちろん、夜、入浴したときにも、

シェービングクリームをたっぷり手に取り、

顎や鼻の下に塗り付け、

ワンプッシュクリーナー付きの二枚刃のカミソリで、

白い雪の荒野をまるでラッセル車が雪をかき分けて進むように

肌が露出していくのを快感に感じながら

入念に剃りあげているのだ。



しかも、私はよく深剃りしすぎて皮膚まで削ってしまい。

風呂上がりのバスタオルを

赤い斑点模様に染めてしまうこともたびたびあるというのにだ。


DSC01859_2800.jpg  


 指先でつまんでみる。

   確かな手応え。

しっかりと私の皮膚に根ざした感触。


 引っ張ってみる。


顎の下の皮膚が回り約二センチほど

円錐系の曲線を描きながら彼についてくる。

まるで「ここにいてくれ。」とでもいっているようにだ。



 このまま引き抜くか。



   考えてみる。

いや、これだけしっかりと根ざしているんだ。

きっと痛いぞ。


考えただけでじんわり目に涙が浮かんできた。


それにしてもよくここまで伸びたものだ。

剃り残しなんて普通はせいぜい2~3ミリ位のものじゃないのか。



  まさかおまえ、

一晩でここまでのびたんじゃないよな。

 

何かの本に、

人間の毛は一晩に伸びても

せいぜい0、5ミリ位って書いてあったように思う。


ってことは、

こいつは約20日に渡って

深剃りが自慢の電気カミソリ君の超音波振動二枚刃攻撃と、

ワンプッシュクリーナー付きの二枚刃のカミソリ攻撃から

のがれ続けたってことか。

DSC01854_2795.jpg


まるで、小学校の体育の時間にやったドッジボールで

味方が全くいなくなってもひとりでがんばってる、

けなげなあの娘の様じゃないか。




おっと、思いもよらないところから

ほのかな初恋の思い出が頭の中に浮かんでしまった。




しかし冷静に考えれば、

彼にとっての現実はもっと厳しいはずだ。



これはきっと毎日の通勤電車で

誰にも触れずに会社まで来るようなものだ。



そう、こんな事ってまるで不可能といってもいいと思う。



そうやって考えると、

こいつがもし人間ならば、

きっと歴史に残るような大人物なのだろう。



織田信長や坂本龍馬、

いや、ひょっとしたら

レオナルド・ダ・ビンチや

はたまたガンジーのような奴なのかも知れない。

何しろこいつには何一つ抵抗することはできないのだ。


が、にもかかわらず、

一切の弾圧に屈することなく、

ここまで自分を高めていったのだから。



   
   見上げた奴だ。

DSC01634_2531.jpg


もう一度私は彼をつまみながら考えた。

私はこんな大した人物になれるだろうか。

何気なく毎日を過ごしてしまい、

人生の計画なんてその日その日で変わってしまうような

暮らし方をしてきた。



これまでの人生を考えてみて、

本当に自分は何かの目標に向かって

一心不乱に目的を持って生きてきただろうか。



そう考えると、

急に自分が恥ずかしくなってきた。



つまらない欲望や見栄、

流行に流されて生きてきたではないか。




これでは毎日深剃りが自慢の電気カミソリ君の超音波振動二枚刃攻撃と

ワンプッシュクリーナー付きの二枚刃のカミソリ攻撃に負けて剃られていった

他の連中と同じじゃないか。




決して、今まで生きてきたのは

自分だけで決めた生き方をしてきたわけでは無い。


なんだか世の中の流れによって、

ただ毎日を暮らしていった結果が

今の自分の存在のような気になってきた。



これじゃダメだ。



何でたった一本の剃り残しのおかげで

こんな事まで考えてしまうんだろう。



もし、この世に神がいるとした場合、



これはきっと自分にとって何かを気づかせてくれる警告なんだ。

ただ何となく暮らしているだけじゃダメだぞという教えなんだ。




そう思うと急にやる気と元気がわいてきた。



たった一本の剃り残しのおかげで、

私は人生のとても大事な部分に気づかされたのだ。



  
  ありがとう。




私は敬意をこめて彼を剃ることにした。



深剃りが自慢の電気カミソリ君の超音波振動二枚刃でとどめをさしてやる。

と思い彼に近づけた。


だが、これがまた不思議なことに、

彼くらいの長さになると


電気カミソリ君の超音波振動二枚刃がなかなか先端をとらえてくれない。

それならとはさみを取り出した。




これがまた思った以上にやっかいなのだ。

鏡を見ながらはさみを使うことのもどかしさ。


右・左はともかく

前後や上下の角度が意外とわかりにくい。


首の皮を挟んで切ってしまいそうになる。



またまた思ってしまう。






  おまえはやっぱりたいした奴だ。






やはりここまで生き延びるからにはそれなりの理由が有るんだ。

それならそれで私も全力で戦ってやろうじゃないか。



私は深剃りが自慢の電気カミソリ君も、

首の皮を挟んで切ってしまいそうになったはさみも使わないことにした。



利き腕の右手の、


親指と人差し指の爪でしっかりと彼を握りしめた。


目に涙が浮かぶことを予想しつつ、


一気に引っ張った。






  これで終わりさ。






顎の下の皮膚にチクリとした痛みが走る。

右目にだけ少し涙が浮かぶ。

だが、なんと、

利き腕の右手の、

親指と人差し指の爪の間に彼はいなかった。

1322837522jMbV6boc_20111208092544.gif


私の予想では毛根まで確実についてきているであろうと思っていたのに、

そこには一筋の線が付いているだけなのだ。




彼は?



彼は、まだそこにいた。






しかもである、

今度は手ではつまめないほど、

自分の身体を直径3ミリくらいの輪にしていたのである。






またまたまたまた思ってしまう。




  おまえはほんとうにたいした奴だ。

最後の最後までこれでもかという抵抗を繰り返す。

これを見苦しいという人もいるだろう。

しかし私は美しいと思った。



痛みじゃなく本当に感動で涙が浮かんできた。


自分もこういう生き方をしよう。

最後の最後まで生きる希望を持って見苦しいばかりの抵抗をしよう。

それを笑うなら笑え。

私はたった1センチほどの彼によって人生の大切さ、

前向きに生きる事の大切さをおしえてもらった。




  今度はもう迷わない。



ありったけの力を込めて利き腕の右手の親指と人差し指の爪の間に、

丸くなって身を守る彼を無理矢理つまみ、


そして前屈みになり、

手で引くのと同時に身体を後ろに反らせた。




えい!





声には出さないが心で叫びながら。


次の瞬間、私の右手は、

洗面所の水道の蛇口に手の甲を嫌というほどぶつけていた。


さらに、

悪いことに横に置いていた深剃りが自慢の電気カミソリ君も

弾みで洗面台の中に剃りかすをぶちまけながら転がった。



彼は?

彼はどこにもいなかった。

顎の右下側、約三センチくらいのところにも、

ありったけの力を込めた利き腕の

右手の親指と人差し指の爪の間にもだ。




  どこへいったんだろう?



私は思った。

やはり彼は私の人生に

もう一度目標をしっかりと見据えるようにと使わされた

神のメッセージだったんだ。と。


しかし、

顎の右下側、

約三センチくらいのところも少し赤くなってひりひりしているし、


利き腕の右手の甲の痛みは紛れもなく夢じゃなく、


今朝の自分にとっての現実であるという事を雄弁に物語っていた。





この後、洗面所の掃除と後かたづけをしている情けない自分の姿があった。



片づけながら私は思った。

彼はまたいつの日か私の顔面のどこかに現れてくれる。

そして、たるんだ自分の生き方に渇をいれてくれるに違いない。

私はなぜか心の片隅でそのことを心待ちにしているのだった。



DSC07082_20111208092204.jpg





消失したelan's blogより

抜粋した馬鹿な私小説の再放送でした。



story - WEST SIDE

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